長い間、美味しいパンといえばフランスのパンだった。住んでいたパリの五階の部屋から通りに出て、十メートル先の角を曲がり二件目のところにパン屋があった。螺旋階段の乗降を含めて約七分。薬缶の底にびっしりこびりついてしまう石灰のせいで味が締まるのだと言われたネスカフェと買いたてのバゲットが朝食だった。秋冬には窓の外で冷やしているバターを塗った。その繰り返しに飽きることはなかった。 それから数十年を経た六年前、ベルリンから半日の列車の旅に出た日、駅のキオスクで在住の友人が昼食用にパンを買ってくれた。「ドイツのパンって、こんなに美味しいんですか」と驚く私に、彼女は「知りませんでした? 負けていないでしょ」…
ショーマッカー/ファインシュメッカー齋藤