日暮れてからそのギャラリーを訪れるのははじめてだった。表通りを抜けると宵闇が重くなる。街の夜がとりわけ暗い年だった。藤沢駅から歩いて十分程のアトリエ・キリギリスで、「グランデールの夜」と題された朗読会が開かれたのは二〇一一年十二月十八日のことだ。会の主催は、このアトリエの一隅でブックショップ・カスパールという書店を開いていた青木真緒さんであった。かつて診療所兼住宅だったというアトリエ・キリギリスの建物は医院の待合室や診察室の空間がそのまま残されており、大部屋小部屋のメリハリが展示にリズムを生む特異な場所だった。 エクリは、フランスのシュルレアリスムの詩人ポール・エリュアールが書いた唯一の童話『…
福田桃子/石橋正孝
