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きんりんバックナンバー

伊川久美子

伊川久美子

「西側のりんごだ」。 跳ねるような声を耳にしたのは、チェコ・スロバキアのブラチスラヴァでのことだった。私たちはドナウ河を前にした絶景のオープンカフェに、当地のコメンスキー大学に留学中の伊川久美子さんと座っていた。西のりんごは列車でのおやつにとパリで買い込んだものだった。日本の玉に比べると、フランスのりんごもかなり小さいと思っていたが、ここで売られているのはさらに小粒らしかった。 久美子さんが河の向こうの高台を指さし、ドプチェクはあの辺りにいるそうよ、と囁いた。「ドプチェクが!」と私たちが驚くと、彼女は「大きな声で言ってはダメ」とたしなめた。一九六八年のプラハの春からすでに十年余を経ていたが、ソ…

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