碑文谷での開業 「武漢なんだよ」 この二年余り、緊張と共に発せられていた地名が出てきたので驚いた。藤田医院の院長、実彦先生は、一九四一年武漢の生まれだという。武漢には実彦先生の祖父が、明治政府の依頼で彼の地に熱帯学研究所の所長として赴任していたのである。そこでは蒋介石や林彪ら要人と会食したこともあったそうだ。戦後、祖父と父酒造光(みきみつ)、実彦一家は、中国大陸から無事引き揚げることができた。父は一時、小豆島で医療に携わった後、宇都宮を経て目黒区に落ち着く。事前に東京の伯父に開業する土地を購入してもらっていたのである。一九四八年に酒造光先生が開業した碑文谷の医院は、その後四十年間地域医療に徹し…
藤田医院
